最近はずっと吉屋信子という戦前戦後の売れっ子作家の小説ばかりを読んでいます。もうもうとにかく底抜けに面白い!!少女小説からスタートした人で、少女雑誌、婦人雑誌、新聞小説などが主な仕事なので純文学ではないのですが、いつでも心を高く持って小説を書きつつ、あのエンターテイメント性…まぁとにかく読み始めると止まらなくて、最近はついつい寝不足です。
さて、話が面白いのと同時に「う、うまい!」と思う箇所をご紹介させていただきます。以下昭和8年「婦人倶楽部」連載の「女の友情」という小説からの抜粋です。由紀子という女学校を卒業したばかりの女の子がほぼ婚約の決まっている青年紳士慎之助と、彼女の妹悦子と3人で宝塚を観に行く場面です。
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そして折しも開幕---日本舞踊を取り入れた軽い一幕だった。
「ホウ、少女歌劇というのは、娘手踊のようなものですね」
慎之助が彼一流の意見を吐いた。ただし彼はその夜初めてそういうものを見たので、彼は外国舞踊家のサカロフ夫妻やテレジーナ嬢やアルヘンチーナ女史の来朝の時より舞踊をみない高級なる藝術観賞家らしかった。
「あらひどいわ、娘手踊なんておっしゃって!」
と、ヅカファンの悦子は慎之助を怨んで抗議した。
「おや、これは失礼しました、ハゝゝゝ」
慎之助は少し少女の悦子を軽くあしらった。
「レビューの時はステージ・ダンスをみな上手に踊りますのよ、舞踊専科の人達とても素敵ですわ、そして日本の踊だって出来るからなお偉いと思うわ」
悦子が
まるで宝塚を一人で背負っているように威張るので、
「ハア、なるほど、そうですか、偉い女の子が揃っていますな」
と慎之助も悦子嬢の御機嫌を損ねぬようにした。
その一幕が終わると短い休憩なので三人は席を立たなかった。すると悦子が慎之助に御贔屓のスターの名やそのスターのニックネームまで教えて彼を感化させようとしてお喋りをはじめた。
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昭和8年といえば1933年でちょうど80年前の話になるのですが----・・・私と悦子ちゃんとやってること一緒じゃん!!ファンでもない人をつまかえて宝塚の成り立ちについてやら、スターについてやら、頼まれもしないのに空気を読まず説明して、その素晴らしさの押し売りをして…
と、まぁそういう「あーいるいる、そういう人」というキャラクターを的確に面白おかしく(実際にはそんな人につかまったら面白おかしくないのでしょうが)書ける吉屋信子、本当にスゴ腕の小説家です。