また吉屋信子です。
時代が時代なだけに、戦前なぞは家に電話がなかったりするものだから連絡手段は基本ハガキか手紙、急ぎの時だけ電報です。でもこの電報も届いた時に先方がビックリして大ごとになるのを遠慮して、そうしょっちゅうは出さないようです。
そんなわけで、手紙がよく出てくるのですが、さすがに吉屋信子が書く小説内のお手紙はお見事!色々ありましたが「安宅家の人々」という小説の中の主人公雅子が義姉へ出す手紙をご紹介させていただきます。
戦争で焼け出されたので、主人公雅子の夫譲二が一人で義兄夫婦の家に居候するお願いをしに行った際、お土産に雅子の好きなスイカを持たされたけど帰途で夫が落として割ってしまい捨ててきてしまいます。夫からは「義姉にはスイカが美味しかったとか適当にお礼を書いてくれ」と言われたけれど、嘘の嫌いな雅子はこんな風に手紙をしたためます。
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その節せっかくおことづけ戴いた西瓜を譲二の不注意で、途中取り落として割ってしまいましたそうでして、ここまで持って参れなかったと聞いて、ほんとにがっかりいたしましたが、戦争中果物が不自由だったとき戴いて私がよろこんだこと、お忘れなきお心づくし、嬉しく存じます。
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結局家のそばで割れて捨てられてるスイカを義姉は見つけてしまうので、雅子さんが正直に書いたのは大正解で読者はホッするのですが…
この、スイカが食べられなくて残念だったけど、それ以上にその心遣いが嬉しかったことなどをスッキリまとめて書けるこの手紙の手腕。こんなお手紙を書けるようになりたいものです。でも手紙って文章の上手い下手はあるけれど、やっぱり心をこめて正直な気持ちを書くのが一番なのでしょうね。
しばらく私の読書タイムに吉屋信子が続いているので、自然言葉遣いも丁寧になりそうな…なってないかな?